第6号
『イーグルに訊け』
(飛鳥新社)2003年
インディアンに学ぶ人生哲学
社会全体が、長い混迷のトンネルに入って久しくなります。いったい、いつこのトンネルを抜けられるのでしょうか。そしてトンネルの先には、どんな景色が私たちを待っているのでしょうか。その新しい景色(社会)へ移行するため、私たちは何を指針にし、どう生きていったらいいのでしょうか。
ヒントは、意外なところにあります。アメリカ・インディアンの人生哲学、あるいは社会のあり方などがその好例でしょう。
かすかに残っている昔の伝統をたどっていくと、人類の叡智の結晶が見えてきます。よく調べてみると、その叡智はアメリカ建国の精神に多大な影響を与え、その後のフランス革命をはじめとする、世界的な民主化のルーツになっているのです。
近代文明は、経済・産業の発展を最優先するあまり、個人のエゴが暴走しやすい社会になってしまいました。それがいまの社会の混迷だと考えられます(拙著、『深美意識の時代へ』講談社)『心の時代を読み解く』飛鳥新社)など参照)。
本書は、来るべき新しい社会に対する準備のため、彼らの叡智をもう一度掘り起こそうという意図のもとに企画されました。
私は、2000年の8月にインデイアンの長老より「聖なるパイプ」 を投与され、パイプホルダーになりました。パイプホルダーというのは、インデイアン社会における最も基本的な祈りの儀式である、パイプセレモニーを司ることを許された人で、キリスト教でいう司祭に相当します。
共著者の衛藤信之さん(日本メンタルヘルス協会代表、カウンセラー)は、2001年の春から8カ月間アリゾナに滞在し、ナバホ族との交流を深められました。そのときの体験を、心理学的な面
から掘り下げていただきました。
インディアンという呼称は、蔑称にあたるとして、従来はアメリカ先住民と呼ぶのが習わしでした。しかしながら最近では、AIM(American
Indian Movement)の中このように、彼ら自身が誇りを持ってこの呼称を使い始めているため、本書ではあえて、そのまま用いました。
また本書では、アメリカ・インディアンを取り上げましたが、同様な思想・哲学は、アイヌをはじめとして、世界中のあらゆる先住民文化の中に見いだせます。つまり人類は、産業革命以来エゴが暴走しやすい激しい競争社会を出現させるとともに、それ以前の人類社会が共通
に持っていた、人間としてまともに生きる知恵を見失ったともいえるでしょう。
本書は、その中で「息せき切って走るのをやめて、立ち止まってちょっと考えようよ」と提案しているのです。
高名なトランス・パーソナル心理学老のケン・ウィルバー博士は、壮大な人類の意識の進化の歴史を詳細に分析していますが、それによると、「エゴの暴走」も進化の大切なプロセスの一つだったことがよくわかります。人類は全体として「個」を確立し、「個」を深め、やがて「超個」の時代へ向かっていく、というのがウィルバーの学説です。さしあたり、次の「個を深める」段階というのは、明解に見えており(『深美意識の時代へ』)、そのプロセスにアメリカ・インディアンの伝統的な叡智がとても大切だ、と気づいたことが、本書を企画する動機となっています。
|