第8号
『癒しの医療』
(飛鳥新社)2005年
新時代の夜明け
本書は医療を超える新しいコンセプトとしてのホロトロピック・ムーブメントを追った迫真のドキュメンタリーだ。
登場する医師たちは、いずれも通常知られている医療の手法のほかに、実に様々な方法論をたくみに駆使する。そのため、他の病院で見放された難病患者が治癒することが多い。その人たちが「治ってよかった」というのは当然だが、ときに「病気になってよかった」という感想が聞こえてくることがある。
病気のおかげで、人生観が180度変わったというのだ。そのような気づきを、心理学では「実存的変容」と呼ぶ。それが奇跡的な治癒のために重要だとする意見は以前からあったが、ホロトロピック・ムーブメントでは、むしろそのような精神的な成長そのものに最大の意味を見出している。すべての人にとって「意識の成長・進化」が、人生の最大の課題だとする思想がその背景にあるからだ。したがって、誕生から死まで、人の人生に関わりあうことになる。病人だけを対象にする現在の病院というシステムは、それが困難だ。
じつはその発想は、漢方などの伝統医療の世界ではむしろ常識だ。養生が基本で、病気になる一歩手前の段階でちゃんと発見して対処するのが本来の医者の姿なのだ。それに比べると、病気の治療しか行わない西洋医学は、いかにも守備範囲が狭い。
ところが最近では、漢方も、それを全面的に取り入れたホリスティック医療も、統合医療も、西洋医学の影響をもろに受けており、治療というきわめて狭い土俵の中だけで議論されることが多い。漢方本来の大きな思想をもう一度取り戻すためには、いっそのこと何か別の名称で呼んだほうがいいと考え、前記の「意識の成長・進化」の思想と合わせて、ホロトロピックと呼ぶことにした。
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