『宇宙のゆらぎ・人生のフラクタル』
PHP研究所
本書のサブタイトルは、「宇宙の星と人の体に共通
する不思議な法則」、本文は、宇宙と科学、ゆらぎとフラクタル、般
若心経とバッハ、という3部構成になっている。
自然界、人間界、物の形状から経済現象に至るまで共通してみられる現象に「フラクタル」と、「ゆらぎ」がある。フラクタル(自己相似形)は、たとえば複雑な海岸線の一部分を拡大すると、元の地形によく似ているが、これは30年前から数学的にも証明されている。また「ゆらぎ」は、素粒子の基本的性質だが、宇宙の誕生や、星が作られる要因でもあり、風や雲の動きの源でもある。この「ゆらぎ」は、グラフにすると「フラクタル」になっており、互いに密接に関連している。
理論物理学者の佐治晴夫氏は、かつて松下技術研究所にいるとき、「ゆらぎ」を研究し心地よい風を作る「1/fゆらぎ扇風機」や、汚れを取る「1/f洗濯機」などの家電商品開発にも携わっている。天文台のある玉
川大学では「真昼の星」を見ることを学生たちに教え、講義の前後には好きな音楽をかけて解説し、私語をなくしたことでも知られる。パイプオルガン演奏を趣味とし、宇宙に思いを馳せることから、NASAを中心としたET探査計画では、ETとの交信に音楽をつかうことを提案して注目された。
いっぽう、科学と宗教の一致点を見いださんと、さまざまな興味深い試論を展開する、量
子理物理学に造詣の深い天外伺朗氏は、宇宙、素粒子、人間の寿命、終末感、悟りなど、着地点に向けてリードしていく。その二人の共通
点が音楽であることも興味深い。それぞての音楽体験が底辺にあり、詩人の目、科学者の目が交錯していく。佐治氏はリルケの言葉を引用し、「言葉が絶えて初めて響く言葉こそ音楽である」と語り、般
若心経もバッハも同じように心の琴線に触れる音だと語っている。
なかでも「ゆらぎ」と「フラクタル」の基本的な性質が、人間が美や心地よさを感じる原点であることを語り合う2部が面
白い。そこでは人間そのものが「フラクタル」な存在であることの4つのポイントがあげられている。1、胎児の成長が個体発生と系統発生のフラクタルになっていること 2、体の構造そのものがフラクタルである 3、複数の出来事が奇妙に意味のある偶然の一致を見せる共時性(シンクロニシティ)も宇宙のフラクタル的性質の表れである 4、次々と新しい出来事に遭遇しているように見えるが、じつは深窓心理的には「自己相似的」な繰り返しをしている人生そのものもまたフラクタルである、としている。
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