もう50年以上にわたり、産業界は経営の近代化、合理化に熱心に取り組み、労働生産性は何倍というオーダーで向上してきた。ところが最近では、その合理主義経営管理手法に限界が感じられ、従業員が疲れきっている状況が広く見られる。それに対して、「従業員に徹底的に権限委譲することにより活性化をはかる」という、従来とはまったく違う経営スタイルの「新しい潮流」が起こってきた。
みんなで足を結んで「ムカデ競争」をしているのが合理主義経営だとすると、一人ひとりがばらばらで、みんな全力疾走しているのが「新しい潮流」だ。当然、桁違いに早い。従業員も元気一杯だ。
ブラジルのセムコ社、アメリカのゴア社などがその典型だが、よく見ると日本の中小企業の中にもその例が何社かある。じつは、創業期のソニーも、60年も前にその「新しい潮流」を実践していた。2003年の、いわゆるソニーショックの前後にそれに気づいた著者は、チクセントミハイの「フロー理論」、ガルウェイの「インナーワーク」、深層心理学、トランスパーソナル心理学などを駆使して体系化をはかり、「人間性経営学」と名づけた新しい経営学を提唱した。それは、ソニーの創業者、井深大氏のマネジメントの再発見であり、また、著者が、CD(コンパクト・デイスク)、ワークステーションNEWS、犬型のロボットAIBOなどの開発のときに経験し、創業時のソニーが全社的にその状態にあったと確信する「燃える集団」という不可思議な現象がベースになっている。
世の中一般に、あまりにも合理主義経営学が常識化しているため、それと真っ向から反する「人間性経営学」を説くのは容易ではない。本書は、六回の詳細な講義と討議(各四時間)により、その驚くべき内容を伝えるセミナー(天外塾)の提案書だ。
単に上記の新しい潮流とそのバックグラウンドを説明するだけでなく、運命との取り組みや「フロー」の周期性、経営者の人間性のキーである「デイープ・グラウンデイング」など、天外塾独自の内容も多く含まれる。
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