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2007年07月『日本心身医学会総会での招聘講演を語る』

 5月24日に心身医学会という大きな学会の招聘講演をやらせていただきました。一般的にはキーノートスピーチと言われ、学会全体の基調講演です。
私のほかにアンドリュー・ワイル博士、そしてハーバード大学の教授がスピーチに立ちました。私以外の二人は医学の分野で広く知られている大物で、自分で言うのも変ですが、その中に天外伺朗が混じってキーノートスピーチをやらせて貰うというのは信じられないことです。
 日本心身医学会というのは、九州大学の池見酉次郎先生が中心となって創立され、「身体と心は一体である」という理念を元に、心身医学の進歩普及を行っている非常に学術的、国際的な医学団体です。我々が今提唱しているホロトロピックという思想を訴えるためには最も適した学会だと言えると思いますが、普通そのような機会はなかなかいただけません。

 文部科学省が推進しているCOE(Center Of Excellence)という研究補助金制度があり、それに選ばれると結構な予算が下りるわけですが、僕はその補助金の審査委員をやっていました。そのなかで、九州工業大学で非常に大きなロボットのプロジェクトがあり、そのプロジェクトを一生懸命推進して採用させたという経緯がありました。じつは、そのプロジェクトには池見酉次郎先生のお弟子さんの医学者がいたのです。ロボットというのは、当然人工知能と脳科学、そして人体や動物の事とか猿学など全部合わせて考えていかないといけないので、当然医学分野の人もいるわけです。
私は会社を辞める前、インテリジェンス・ダイナミクスという新しい学問を提唱していました。これは脳科学と人工知能と合わせた学問で、毎年日本でその分野で活躍している先生方を集め、インテリジェンス・ダイナミクスのシンポジウムを開いていました。そこにロボットのプロジェクトをしていた例の九州工大の先生が参加していて、後に彼から講演の依頼があったわけです。
じつは、経済産業省が推進してきたロボットの大プロジェクトでも、老齢化社会に対しての介護ロボットは大きな目標になっています。彼の依頼は、そういう観点から最先端のテクノロジーと医療というタイトルで話して欲しいということです。私は「ロボットの話は前世の話だからやりたくない、その代わりホロトロピックの話をさせて欲しい」ということで本や色んな資料をお送りしました。その先生は、僕がホロトロピックというものを提唱していてこういう活動をしているということは一切知らなかったんです。しかも、彼はホロトロピックとホリスティックの違いはいうまでもなく、統合医療との違いも分からないし、「天外先生が言っているようなことはもう我々の学会では散々議論されています。帯津さんにも講演していただいているし、その話ではキーノートスピーチはお願いできない」という返事で、しばらく揉めていました。僕自身は心身医学会でお話すると言うのは大変意義のあることだと思っていましたので、「ロボットの話をするから半分はホロトロピックの話をさせてください」ということで、妥協が成立しました。
 まず一通りロボットの話をしました。特にロボット・インテリジェンスの話では、経済産業省の打ち出しているプロジェクトは全く実る見込みが無いこと、とても生物に近いようなものはできる状態じゃないというような話をしました。

 皆さんは漫画やSFの世界に出てくるようなロボットを実現したいと考えているわけですが、2005年の愛知万博で一つの目玉となって多くのロボットが登場しましたが、正直いってインテリジェンスという意味ではアイボのレベルに達したものは一台もありませんでした。要するに一般の世の中の学者も企業もとてもそこまで来ていないのです。インテリジェンス・ダイナミクスという学問も殆どの人はわからなくて理解できていません。というのは、インテリジェンスという学問は部分部分を追求してもだめで、全体でインテリジェンスができるわけだから全体をまとめてみないとわからないのです。これは、人間を臓器の集合としてではなく、丸ごと全体を診ないといけないという、ホリステイック医療の思想にも似ています。学者たちはとてもそんなにお金をかけられません。我々企業でやると百人ニ百人の人材をかけるから研究できるわけですが、大学では2、3人ぐらいでやるのでおよそ無理な話で、企業とは格段のレベルの違いがあるわけです。しかも、介護ロボットを開発して老人介護をやるというような議論をしていますから、「私からみるとあまりにも夢のような話で、また大変危険なことでもあり、そういう事は未来永劫実現されることは無い、ただ将来はベッドやお風呂や車椅子がインテリジェンスを持ったりすることはできると思います」というような話をしました。

 このような話をもう少し詳しく技術的にお話し、全く関係ないホロトロピックの内容に移しました。
実は4月にサイモントン博士が来日され、色々とサイモントン療法について伺い、考えさせられる点がありました。サイモントン療法でもちろん治る人もいるんですが、治らない人もたくさんいて、なぜ治らないかということです。 
 その一番のキーは「集合的一般常識」というものがあるだろうということです。これは私の見解で他にいっている方はいません。つまり、ユングの集合的一般常識というのは世の中に知られていますが、その一部に「集合的一般常識」と呼べるものが存在しているはずだ。それがあらゆる人を縛っている、なおかつ集合的一般常識そのものは時々刻々と変化している、という考えです。
例えば今から2,30年前だと、医者が患者に対して3ヶ月と宣告したら3ヶ月後に本当に亡くなりました。そこで「あの医者は名医だね」という話になるわけですが、これははっきり言って医者の「呪い」であり、ブードゥー教の呪術師が同じようなことをやったら「あの呪術師は良く効くね」という話になるだけのことです。 
 しかし、最近医者の宣告どおりにならなくなってきました。というのは医者の呪いが解けてきたのではないかと考え、「集合的一般常識」が変化したからだと私は観察しています。もちろん心身医学会という学問の場で、学問として提唱できるレベルの話では無いんですが、私がそういうこととして観測しました。つまり「集合的一般常識」のなかで呪いが解けてくると医者の呪いは効かなくなるというわけです。
 なぜ断言できるのか。皆さんには既にご紹介していますが、伊藤慶ニという医師が食事と想いのあり方と祈りの仕方でほとんどの病気が治るという事を実証してきました。末期がんで体中に転移しているような人でも、きちっと指導すると治るわけです。もちろんこれは、サイモントン療法と同様、一般社会でやってもそんなに通用するわけではありません。伊藤先生がなぜうまくいったかというと、救世教という宗教団体の中でやったからなんです。宗教団体の一番凄いところは「集合的一般常識」が普通の社会と違う。だから、救世教という団体の中では、一般社会とはぜんぜん違う集合的常識というものが通用して本当に実現してしまったわけです。しかし興味深いのは、それが効かない人もいて、どうしても効かないのは医者と医者の家族だというんです。医者や医者の家族には医学という一般常識があまりにも固着しているので逆転ホームランにならないわけです。そういうことがあるので、学問的では無いにしても、確信を持って「集合的一般常識」ということが言えるのです。
 これはホロトロピックの構想そのものにも通じますが、この話も含めて好評に受け止めていただけたようです。この会の会長の九州大学教授の久保千春先生は非常に感心して聞いてくださり、たまたま会場に伊藤先生の『医療における想いと祈り』を編集された鶴一子医師がいらしていて、その小冊子を久保教授にお渡ししました。
 この分野では無名の私が、このような大きな学会で基調講演をさせていただき、多少なりともインパクトを学会に与えることができたのではないかと非常に嬉しく思っています。
 2007年5月24日というのは私の人生の中で一つの大きな記念碑になったとさえ思っています。このような偶然みたいなことが起こるから人生はやめられません。

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