ホロトロピック・ネットワーク天外伺朗の部屋(慈空庵)メッセージ>2004年08月    
 

Copyright(C)
Holotropic Network
All Rights Reserved.
   


2004年08月『ホロトロピック・センター構想』(1/4ページ)

2004年8月、富山市で開催された和漢医薬学会大会での天外伺朗さんの特別 講演「ホロトロピック・センター構想」をご紹介します。この講演は和漢医薬学会新聞でも取り上げられ大きな評価を得ています。学会の主催者である富山医科薬科大学の寺澤捷年先生からご要請をいただき、天外さんは使命感を持って壇上に上がりました。(一部割愛しておりますので、ご了承ください。)

 今から30年以上も前に、ソニーの創業者の井深大が西洋医学の限界を指摘し始め、私は医療に関心を持つようになりました。井深さんは、漢方をもっと表に出さなくてはいけないということを、強く主張しておりました。当時はまだ、西洋医学万能と思われており、彼はずいぶん辛い目にあっております。おそらく、今日おいでの皆様も、同じ経験をされているのではないかと思います。
 井深さんは東洋医学を積極的にとらえ、まず有力な医者たちを一生懸命洗脳したんです。現在JACT(日本代替医療学会)会長をつとめられている渥美和彦先生はじめ、西洋医学の保守派の医師たちを説得し、代替医療や漢方に目覚めさせました。
 井深さんが漢方、東洋医学に非常に興味を示されたのは、彼自身が鍼の先生にかかったからです。この先生は、彼が部屋に入ったとたん、脈をとることも何もしないで、「ああ、あなたはいま、こういう状態ですよ、経絡がこうなっているので、こういう症状が出てるはずだ」と言い、本人が何も言わないうちに、診断が終わってしまうのです。そのときに一番適した鍼の治療をしてもらえるわけですが、これは、まったくのオーダーメードの治療といえます。
 それに対して西洋医学は対照的です。ピカピカの機械で一生懸命検査をし、それもひどく身体に負担のかかる検査がほとんどで、やっと最後に病名が分かります。そして、患者に対する治療をするのではなく、病名に対する治療をするので、ただ統計的に治癒率を求めるようなやり方になってしまいます。結局、個人はまったく無視された治療となってしまいます。
 西洋医学でいくら科学的に色々なことをやっていても、結局はまだまだ粗い医学なのです。それに比べ、漢方は非常に精妙な医療であって、これをちゃんと表舞台に出さなくてはいけない、ということを井深さんは言い出しました。
 まず、漢方の名人は、見たとたんにすべてが分かるということです。最初、井深さんからその話を聞いたとき、私は、これは何かまやかしじゃないかと思ったんです。しかし、これはあるトレーニングを積むと、その領域に行けることなんです。そういう漢方医に何人もお会いしました。あまり科学的ではないんですが、そういうところに、漢方の本当の素晴らしさがあると思うのです。しかし、それはだれにでもできることではないので、まず脈診のトレーニングに焦点を当てました。
 漢方医はだれでも、脈診のトレーニングを積んでいますので、脈をとれば、結構正確に診断ができます。これをもう少し科学的にできないかということで、私も一緒に関わり、ソニーの中で始めました。まず韓国から非常に有名な脈診の先生をお呼びし、データを取ろうということで、(西洋医学の第一診療所に対して)第二診療所みたいなものを作り、患者をとって診療を始めたわけです。鍼と漢方薬で治療し、同時に、脈診のデータをとりました。そのデータを見て診断し、必要に応じて西洋医学的な診断もして、つきあわせをしました。
 元々データを取るために第二診療所を作ったんですが、一年後にどうなったかというと、第一診療所のほうが閑古鳥が鳴くようになってしまったのです。従業員がみんな、漢方のほうへ行くわけです。だいたい八割くらいの人が、西洋医学の第一診療所で出す薬よりも漢方のほうが効くんですね。ですから、第二診療所のほうがどんどん繁盛しました。そのうち、そのドクターは独立し、会社のそばで開業して、その後も大変繁盛しておられます。
 従って、漢方の素晴らしさ、すごさというのをずっと体験してまいりました。
 井深さんが当時考えていたことは、いまやほとんど実現しているのではないかと思います。ホリスティック医学協会ができ、たくさんのお医者さんが代替医療とか東洋医療に取り組んでおられます。漢方薬も一部では、ずいぶん前から保険の適用になっています。それから、医学の教育の中でも漢方が必須になりました。もし井深さんが生きていらしたら、このような学会が、これだけの規模になったということをものすごく喜んでくれたと思います。
 では、その先に何があるのか。
 皆さんには釈迦に説法ですが、本来の漢方というのは、養生が基本なんですね。漢方医の中で一番位 が高いのは、食生活から健康維持を指導する食医で、そういう伝統があるわけです。今の西洋医学の壁の中で、そのような伝統を持った東洋医学をじわじわと浸透させていくというのは、大変な戦いです。もっと違うところから、根本を見ると、ちょっと違うのではないでしょうか。

●次ページへ>